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太陽光発電の意味について考える本『エネルギーシフト』
2010年度(平成22年度)の国の補助金のしめきり(12月24日)が近づくにつれ、インターネットのQ&Aサイトなどでは、太陽光発電に関する質問投稿が増えています。質問として一番多いのは、「訪問販売会社から見積もりをとったが、この金額は妥当なのか?」というもの。続いて多いのは「太陽光発電は本当に得なのか? 設置費用の元はとれるのか?」という質問です。
先の見通せない経済状態の中で、生活者が何百万円という大金を支払うわけですから、当然といえば当然の疑問(不安)でしょう。逆にいえば、設置時の補助金とか、余剰電力の高額買い取り策などによって、条件さえ整えば、太陽光発電システムへの投資も十分元がとれて、長期的には利益を出せる存在になったことが、消費者に広く行き渡りつつある証拠ともいえるでしょう。
個人的な損得勘定で太陽光発電に興味を持つ人が増えたり、実際に導入する人が増えたりするのは悪いことではありません。しかし最近の動向を見ていると、あまりにも導入時の損得勘定ばかりに目を奪われて、一見すると安い買い物で得をしたように見えて、実は大きなリスクを背負込んでいると思われるケースや、太陽光発電でエネルギーを作り出す楽しみなどには目もくれないケースが多いと感じます。
目先の損得だけでなく、本当の意味で損をしないための太陽光発電の心構えとか、太陽光発電で可能になる社会貢献、太陽光発電がもたらしてくれる心の豊かさなど、さまざまな太陽光発電の側面を、長年の実体験を踏まえて利用者視点でまとめた本。それが今回ご紹介する『エネルギーシフト―太陽光発電で暮らしを変える・社会が変わる』(旬報社発行、都筑 建 著)です。著者の都筑(つづく)さんは、現在のような一大ブームが到来する以前の2003年から、日本全国の太陽光発電システム・ユーザーを組織化しているNPO法人 太陽光発電所ネットワーク(PV-NET)の事務局長です。この都筑さんやPV-NETについては、太陽生活ドットコムの記事でインタビューをしていますので、併せて参照してください(→関連記事)。
『エネルギーシフト』には、資源の枯渇や環境破壊の問題から、私たちが近い将来に直面するであろうエネルギー問題を見据え、そうした中で個人住宅が太陽光発電したり、太陽熱を利用したりすることの意味がわかりやすくまとめられています。昨今、太陽光発電への注目が高まっているのは先に述べたとおりですが、メーカーや設置業者の行き過ぎた商業主義や、政治や大企業などのご都合主義にさらされて、ユーザーにとっての太陽光発電の本当の価値を確認することや、その価値を最大化するための取組がないがしろになっている部分があります。
これに対し本書は、あくまでも生活者視点で、太陽エネルギー活用に失敗しないためのポイントをまとめています。自分が使うエネルギーを自分で作るという楽しみから始まり、太陽光発電の本当の環境価値、太陽光発電業界の裏事情、システムの故障を監視し万一の場合に取るべき対策、政府が検討している全量買取制度の欠点まで、太陽光発電をとりまく現状と今後が長年の経験者ならではの視点でまとめられています。
電気やガスなどのエネルギー源といえば、これまでは電力会社やガス会社から一方的に買うしかありませんでした。しかし太陽光発電や太陽熱温水器を利用すれば、エネルギーを生活者が自分で作り出せるようになります。大きな力に身をまかせるばかりではなく、生活者が主体となって未来の生活について考え、行動できるわけです。こうした主張がしっかりと語られているのも本書の特徴でしょう。
エネルギーの効率的な地産地消を進め、一方で消費者の省エネルギー意識を高めて、エネルギー自給率を向上させるとともに、環境負荷の小さい社会を作れる住宅向けの普及こそ、太陽光発電の真価が発揮できる場だという都筑さんの意見に私も賛成です。住宅向け太陽光発電の普及率では、いまだに日本が世界を圧倒しています。未来のエネルギー生活へのヒントが、この日本にはたくさんあるのです。しかもそれを支えているのが、国でもなく、大企業でもない、私たち生活者だという点が特異的です。
未来の生活を模索するための一員として、自分自身も参加できるなんて素敵ではないですか。金銭的、個人的な損得勘定だけでない、太陽光発電の意味や意義について知りたい方には、ぜひ読んでみてもらいたい一冊です。
『エネルギーシフト―太陽光発電で暮らしを変える・社会が変わる』
旬報社 発行
都筑 建 著
ISBN:978-4-8451-1191-6
1470円(税込み)